柴犬が危篤！玄関には心配で集まった10匹の猫たち　＃short

柴犬が危篤！玄関には心配で集まった10匹の猫たち　＃short

【内容】

うちの実家は……
代々続く、ちいさなお寺です。
春には桜が咲き、
夏には蝉の声が響く。
秋には落ち葉が境内を染め、
冬には雪が静かに降り積もる。
そのお寺で、一匹の犬を飼っていました。
名前は――「ゴン」。

見た目は堂々たる柴犬。
だけど、心はとてもやさしくて……
とくに、猫に目がなかったんです。

境内を横切る猫のあとを、
そっとついて歩くゴン。
木陰で昼寝をする猫のそばに、
ゆっくり寝転ぶゴン。
まるで、「友達だよ」とでも言うように、
ただ、そばにいるだけで幸せそうでした。

屋根の上を駆ける猫たちを見上げて、
尻尾をゆっくり振るその姿。
――あぁ、なんて穏やかで、あたたかい犬なんだろう。

年月が過ぎ……
ゴンも老いました。
目もほとんど見えず、
耳も遠くなって。
それでも、
私たちの声を聞くと、
うっすらと尻尾を振ってくれました。

まるで、「ここにいるよ」って、
そう言ってくれているように。

ある日のことです。
私の携帯が鳴りました。
「おい！お前んちの前が……すごいことになってるぞ！」
慌てて玄関を開けたその瞬間――

息をのみました。
そこには、
信じられない光景が広がっていたんです。
静かに、慎ましく、
だけど確かな意思を持って――
20匹を超える猫たちが、
我が家の門の前に集まっていました。

白い猫、黒い猫、茶トラ、三毛……
小さな子猫まで、並んでいました。
みんな、
まっすぐに玄関を見つめていた。
まるで――
「ゴンに、会いに来た」
そう言っているように。

私は震える手で、
ゴンを抱きかかえました。
もう、骨ばって、軽くなっていました。
それでも、
そのぬくもりはまだ、確かにありました。
玄関先に連れていくと、
猫たちは……一斉に頭を下げました。

一匹、また一匹と――
ゆっくり、ゆっくり頭を下げていく。
その光景は、
まるで祈りのようでした。

私は、その場で動けませんでした。
母は涙をこらえ、
父は静かに手を合わせていました。
猫たちは順番にゴンのそばまで歩き、
ほんの数秒、じっと見つめて――
また静かに去っていきました。

その時です。
確かに、聞こえた気がしました。
「ありがとう」
声ではなく、心で。

その日の夕暮れ、
ゴンは静かに息を引き取りました。
まるで――
役目を終えたかのように。
眠るような穏やかな顔でした。

あの猫たちは、
どうしてあの日、あの時、集まったのだろう。
偶然？　
それとも……ゴンが呼んだのか。

思えば、ゴンはいつも猫たちを守っていた。
寒い日には体を寄せ、
雨の日には軒下を譲り、
時には自分のごはんを分けていた。
そのやさしさが、
猫たちの心に届いていたんだと思います。
命の言葉は、
言葉じゃなく、
心で伝わるもの。
だからきっと、
猫たちは――感謝を伝えに来たのです。

私は今も、
あの日の夕暮れを思い出します。
沈む陽の光、
並んで歩く猫たちの後ろ姿、
そして、
微笑むように眠るゴンの顔。
そのすべてが、
今も胸に焼きついています。

この話を信じるかどうかは、
あなた次第です。
でも、私は確かにこの目で見たのです。
感謝を捧げた猫たちの――
奇跡のような別れの光景を。

「ありがとう」
その言葉が、
今も、どこかで聞こえる気がします。
「ありがとう」が……言いたくて。

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